中国貴州省 黄平県の苗族 イ革家人(人偏に革)(読み グージャーレン)の人たちによるおんぶ用の布。
もともとは色鮮やかなものであったものを藍で染め直したもの。 遠目には、「色あせた古布」にしか見えませんが、よーく見ると、いろんな色が見えてきますし、またクラクラするほどの細かい手仕事で仕上げていることがわかります。
この古布を譲ってくれた貴州の女性によると、これほどの細かい仕事を仕上げるにはおよそ3年かかるだろうということです。
おそらく「平繍」と呼ばれる技法で、鎖状の紐(糸)でアウトラインを作り、さらにその中に別の色(当時は赤系と思われます。)の糸で埋めてあります。
苗族のおんぶ用の布は「背扇」と言い、貴州、雲南、四川などの苗族により様々なタイプが存在しますが、その多くが見事な刺繍やろうけつ染めがされています。この品物でも3年ということは、赤ちゃんが生まれてきてからでは間に合いませんので、想像するに娘が生まれたら、いつかこの子がお嫁に行き、子供を授かる日の為に、母親が仕立てるのではないかと思います。
山岳部の厳しい気候で将来の働き手である子供が無事に成長してくれるよう、邪気を払い、幸福をもたらすと信じられてきたモチーフを紋様にしているのも、特徴です。
若いお母さんは、母親が作ったこの背扇にわが子をくるみ、あんよが上手にできるまでは、大事に大事に背中におぶっては、日々の家事をこなすのでしょう。
当時、色鮮やかだった衣装やこの背扇は、持ち主が年をとり、おばあちゃんになると、藍で染め直して、また使われます。この布を見ると、そうしたヒトの営み、歴史を感じることができると思います。
中国の山岳部も今は高速道路ができ、情報や便利なもの、そしてナイロンやポリエステルの衣料品もたくさん入ります。赤ちゃんをおんぶする布もこうして愛情をかけて仕立てる風習は、どんどんなくなってきています。
世代を超えて使われてきたものであれば、その価値については何をか言わんやでありましょう。